前号でも「地域植物の実態解明の必要性」と題してほぼ同じ内容の文を掲載したが、植物の成育地に及ぼす人為的な影響のおそれが後を断たないので、再度訴えておきたい。高橋務先生の寄稿「小さな町の植物保護」を本誌に掲載したように、町のどこかひっそりと生育している貴重な植物があり、それを大切にしておきたい気持ちは、その存在を知っている人は、誰しもそのように考えると思う。どこの市町村でも、植物の生育地で自然のままにしておきたいと思う場所があるはずであるが、多くの場合、そこに生育している貴重な植物の存在がわからないまま、人為的に改変されてしまい、その存在が消失してしまっている。「知らなかったから仕方がない」と済まされないように思われてならない。
植物に関心がある方には、在住している市町村内の植物の実態を調べることに全力を注いで頂きたいと念願している。市町村内の植物の実態を把握することにより、自生の植物を保護する必要性が浮き彫りになるはずである。うっかりしていると、いつのまにか残っていた自然の景観が人為的な作用でなくなってしまう。なくなる前に、調査しておき、必要に応じて保護の必要性を訴える等、対応出来るような体制作りが、植物関係者に求められている。
「村起こし」でゴルフ場、スキー場などを建設する前に、村の財産目録を明確にしておくことが大切である。つまり、村内の自然環境の実態を詳細に調査し、村内の自然環境の実態を明らかにしておきたい。それを破壊してしまうような改変は、将来の「村起こし」の障害になると確信している。村内の自然環境の保存そのものが、将来の「村起こし」の基盤になることを忘れてはならないと思う。自然環境の実態調査では、気象、地質、土壌など無機的な環境条件に加え、動植物の種類や分布も記録し、自然環境に関する財産目録をはっきりさせておくことが肝要と考える。その結果を利用し、すぐれた自然を保存しながら、将来の村の方向を見定めることが大切であろう。
特定の場所に動かずに生育している植物の場合、貴重な植物の存在の実態が明らかになることにより、むしろ、その生育地が破壊されることも稀ではない。貴重な植物であるが故に身近に置きたい、という人の心理で移植をしてしまうなり、乱獲することがあるが、その行為を避けたいものである。住民全体に対して、そのような行為そのものが、居住地の財産を失うことにつながることを充分理解して頂く必要がある。市町村の将来を実行に導く行政関係者には、特に要望しておきたい。貴重な植物が生えているなら、それを基盤に観光のための整備を行い自然状態を改変してしまうのは、自然に対する配慮のない行為であり、絶対に避けなければならない。昨年の情報によれば、中魚沼郡津南町では、折角町の教育委員会が自然の実態調査をまとめ、植物の分布上から極めて稀であり、また、学術上重要な所と指摘した「見倉の風穴の植生」を壊滅的にしてしまったとのこと、正確な実態は明白ではないが、甚だ残念な行為である。道路建設の前に風穴から出来るだけ法線を避けるように提言して「風穴保護」に配慮したにも拘らず、人為的に風穴の植物を刈り取ってしまったとのこと、折角の財産に大きな傷を残したのではなかろうか。「村起こし」に携わる市町村の指導的な立場にある関係者には、地域の自然環境の実態把握の上で、計画を立案し、実行に移して頂きたいと強く要望する。