佐潟公園化計画の再検討を 尾崎富衛
さる11月28〜30日、新潟において、ラムサール条約の日本における第10番目の登録湿地として佐潟が指定されたのを記念して、ラムサールシンポジウムが開かれた。 30日のセッションで、佐潟をめぐる諸問題について多くの発表や討論がなされた。 この中では自然、人文、他の湖沼との関連などが紹介され、ラムサール指定地としての価値の認識を深め、更にワイズユースを模索し、発展させてゆく出発点ともなった極めて有意義なシンポジウムであった。 このセッションで、発表に続いて行なわれた討論中の主題は、新潟市が進めている「佐潟公園化計画」への批判であった。
筆者はかねてからこの計画の推進に大きな疑問を感じていた一人であったので、日頃から考えていた幾つかの問題を提起して見た。 以下その内容の一端を紹介する。
◎(質問の内容)佐潟公園化計画を全面的に再検討を望む! 1996.11.30 尾崎
- 自然生態観察園は佐潟自体の植生など生態系の材料を使用すべきで、他の地域から生態系を混乱させるような種を導入すべきでない(石沢氏のNHKテレビの発言も参照)。
例)サクラはカスミザクラを、ソメイヨシノではない。
- この計画に対し積極的な情報の開示を望む。 市民サイドの意見も聞く場を設けて欲しい。 1993年に行なわれたアセスメントは、一般に知られていない。
- 既設の工事完了部分の管理が不十分である。
例)アヤメ(ハナショウブ)が放任状態(アヤメは間違い、ハナショウブである)。
- 鈴木マギー女史の指摘の如く、佐潟の周辺も含めた生態系の総合的解析をすべきである。
- アセスメントの調査が不十分である。 1993年の調査は期間が短い(翌年は植生が激変している)。 もっと長期的視野に立っておこなわれるべきである。
- 絶滅危惧種の保全対策を即刻実行して欲しい。 植物だけなら経費は僅かですむ見通し。 これは多分植物の分野だけでなく、鳥以外の動物の各分野でも有る筈である。
サデクサ、ハンゲショウ、ヤナギトラノオの保護が重要。 オニバス、ミズアオイは偶発性。
デンジソウ、タカアザミ、ヒメイズイ、ヒメホタルイ、フトイ等々、絶滅種?の轍を踏むな。
- 平成17年まで計画が続行するそうだが、改悪をそんなに長くやられては佐潟の自然は全く消滅してしまう恐れがある。
◎補足的事項
- 浚渫の話があるらしいが、手法はよくよく考え、識者の意見も聞き、水面植生が消滅してしまわないよう配慮すべきである。
- 佐潟周辺の景観保全をどう考えるか。 鳥屋野潟のように利権屋、デベロッパーにより乱立したラブホテルが動かせなくなるような事態になってからではおそい。
厚生年金?のスポーツ施設、特にゴルフネットは景観上誰からも評判が悪い。
- これからはラムサール指定地として外部から諮問や働き掛けがあるであろう。 その時に新潟が恥をかかぬよう、湿地保全と賢明な利用について、行政と民間が一体となって、今後の政策を考え、進めて行かなければならない。
- 見ていると鳥屋野潟の自然が次第に悪化していったのと似た過程を辿っているような気がしてならない。 周辺に未だ人家が少なく、保全が容易な内に手を打つべきである。
◎同じ問題に関連して他の会員からも出た同様の質問の要旨 (所属団体は略称)
- 森田竜義氏(新大):公園化計画の再検討を望む。 都市公園手法で進行している。 佐潟にそぐわない。
- 村上興正氏(京大):公園化計画の再検討を望む。 20年前の淀川公園化の失敗を今新潟が繰り返している。 ナンセンスな環境破壊である。
- 福原晴夫氏(新大):公園化計画の再検討を望む。 ラムサールを契機に、手直しでなく計画そのものの見直しが必要である。
- 杉浦幸子氏(県外・佐潟見学者):芝生、コンクリート、直線的構造の造成はやめよ。
- 鈴木マギー氏(県外・佐潟見学者):行政、市民が一堂に会して、今後の佐潟の行き方を考えては? 地元も包括するべきだ。 潟の水面だけでなく、広く周囲の地域も見渡せ。
- 東海貞義氏(保護基金):市当局は佐潟の生態的特徴をどう把握しているか?
その他県内・県外の多くの方々の発言も大勢はみな再検討・中止に賛成者が多かった。
- 議長 大熊孝氏(新大):大体こうなるのではないかとの空気は察していた。
◎これらの質問・意見・要望に対し、桑原良帥氏(新潟市公園緑地課長補佐)の回答
- 自然生態園の予定の所:潟の岸が昔水田となっていた所を買収し、約10年経過。 現在はヨシ原を埋め立て中。 今後専門家と協議し造成。
- 情報公開:今迄一部行なって来た。 今後検討委員会に諮り、公開の方法を改善して行く。
- 公園施設の管理:新年度予算で改善を計る。
- 生態系の解析:今後長期的視野で行なう。
- 絶滅危惧種の保全対策:専門家と相談する。
- 都市型公園とした理由:現行制度運用上から(自然生態観察型総合公園と位置づけ)。
- 公園化計画を抜本的に見直せとの意見:取り入れられる意見は今後の計画に反映する。
- 水際の構造改善:(芝生、舗装、コンクリート等)十分検討する。
- 植栽の種類:今後地元原産の種の利用を配慮する。
総合的に(判断)結論づけると:計画を中止する考えは現在の所ないが、手法は今後これらの意見を取り入れ、改善して行きたいということ。
◎関連する他の質問・意見等
- 野中氏(新大):公園緑地課だけでなく、他の関係部所からの回答意見が欲しい。 広範囲の議論の場が必要である。
- 高橋氏(水辺の会):広く市民参加のワークショップを開催しては。
- 武藤氏(ラムサールセンター):学識者や一般市民を包括した議論の場を作れ。 問題意識の明確化。
- 福原氏(新大):武藤氏と大体同意見。 貴重な自然について相互認識を深める。
- 呉地氏(雁保護会):高橋氏と同じく公園化計画全面見直しが必要。 推進すればガンは消滅する。
- 森田氏(新大):ワイズユースの解釈と運用に注意する。 自然環境の改変には影響をよく判断して慎重にすべきだ。
- 菅原氏(市環境部):各専門家から意見を聞き、具体的調査を出発させる段階。
- 大熊氏(新大):佐潟周辺自然環境検討委員会は、何から検討し、何を調査すべきかを模索中。 森田氏の意見より事態はもっと急を要しているのではないか。
- 藤田氏(鳥屋野潟の会):情報の公開が重要。 鳥屋野潟では公開情報をもとに度々行政に提言し、それなりの成果があった。 ヘドロ処理なども佐潟ではどうするか?
- 野中氏(新大):佐潟周辺は地下水中の窒素濃度が異常に高く、佐潟の水は富栄養化が深刻である。(発表内容と関連し)周辺の畑作の過施肥が齋らしていると思えわれる。
- 村上氏(京大):検討委員会の答申によるアクセスの結果が出る迄公園化計画は中止すべきである。 一度破壊したら永久に自然は戻らない。
- 石沢氏(新大):過去長期に渡り、佐潟を調査してきたが、(植生、生態系には)不明の点が多い。 これからが佐潟の湿地生態系を明らかにする出発点である。
- 茅原氏(新大):佐潟は単なる公園緑地ではない。 市と県の意志疎通が不十分。 市議会低調。 3種特別地域の管理は新潟市が独自にやってほしい。
- 鈴木マ氏(香川):会員諸氏にラムサール条約の条文を読んで勉強して欲しい。
(この項記録係井上信夫氏により抜き出し)
大体上記のような経過であった。 全体の空気は、もし公園化計画をこのまま推進すれば、必然的に佐潟の自然破壊が進み、貴重な生物群集は消滅し、潟は無価値となるであろうというもので、即刻計画を中止し、衆知を集めて今後の行き方を総合的に再検討すべきであるとする意見が大多数を占めた。 行政側としてもこれらの提言に対し、今後何らかの大幅な改善を迫られたことになる。
他の府県の参加者からの発表や討論の発言中にも、行政との摩擦、民間ボランティアの力による改善等幾つかの事例が紹介されたが、これらはいわば自然保護の闘いの先輩として、新潟へのよきアドバイスともなったようである。
繰り返し叫ばれているように、一度破壊された自然は再び戻って来ないことを改めて認識させられた会議であった。
(1997.1.13 尾崎記)
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公園整備に伴う湖岸の造成(1996.11.16) |
ハスが優勢に繁茂する湖面(1996.9.4) |
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