絶滅危惧種の中には、数が少なくなって、ある地域では絶滅したと思われていた種類が、条件によって再び多数生育する年があったりして完全に絶滅したと断言できないことがある。かつて福島潟のオニバスが絶滅したと記録し、報道されたこともあるが、浚渫という人為的な作業によって埋土中の種子が発芽して回復した例もある。
絶滅危惧種(II類)であるミズアオイ、オニバス、共に今年は新潟市の佐潟では、豊作であった。ミズアオイ、オニバス共に自生が確認された。毎年、個体数に大きく変動がある。それは、前年の個体数の影響というより、埋土していた種子がその年の環境条件に影響されて、発芽したりしなかったりするらしい。
今年は上佐潟に40m×50mほどの範囲にわたってミズアオイ群落が出現し、9月9日には一斉に花を咲かせているのを確認した。(写真参照)。広大で豪華なお花畑である。潟沿いの農道から、ママコノシリヌグイ、ヨシ、マコモ、ハスを20mほどかき分けて入る。水位は10〜20cmであり、底は砂質、長靴で悠々と歩けた。ミズアオイの生育する範囲には、ほとんどハスはなく、根元では、所々でオニバス(写真参照)も花を咲かせていた。
上佐潟は、本来、満水期には人が埋まってしまうほどの水位があると聞いたことがある。ミズアオイの生育していたこの場所は上佐潟でも浅いところであるとは思うが、今年は猛暑が続き、更に小雨だったので例年より水位が非常に低くなっているということである。また、佐潟は昔、一部が水田として利用されていた。このため、元々水田に多かった植物もたくさん確認することができる。ミズアオイは絶滅危惧種とされているが、本来、水位の低い沼や田に旺盛にはびこる水田雑草である。佐潟で大群落が出現した理由の一つは、この辺にあると思われる。佐潟以外では、今年、福島潟(豊栄市など)、瓢湖(水原町)、鵜ノ池(大潟町)で自生を確認したが、県内の水田でも随所に発生しているようである。
例年はヤブをこいだり、船を出したりしないと容易に確認することはできない佐潟のオニバスであるが、今年は国道脇の佐潟橋から眺めただけでもすぐに発見できた。橋の下の水路がオニバスで埋め尽くされるほどに生育していたからである。また、例年、歩いて簡単に観察できていた場所として、佐潟橋をわたり、花菖蒲ゾーン脇の遊歩道を歩き、芝生広場の手前から、約10m沖であったと記憶しているが、今年はいつもの個体数の倍以上は確認できた。潟内も望遠鏡を使えば、ハス群落が途切れているところに、オニバス群落を見つけることができるほどあちこちに生育していた。また、佐潟以外の自生地の生育も概ね良好のようである。今年確認した自生地は、北から、松浜の池(新潟市)、福島潟(豊栄市など)、瓢湖(水原町)、朝日池、鵜ノ池、天ケ池、蜘ケ池(大潟町)である(但し、瓢湖の群落は縮小していた)。オニバスの生育には、温度や水位などの条件が関係していると言われているが、今年の猛暑と小雨が影響しているのだろうか。
オニバスが絶滅危惧種(II類)に判定された主な理由は、池沼の開発、水質汚濁、土地造成である。しかし、その生活様式は攪乱された環境に最初に出現するパイオニア的性質を持ち、洪水や水位変動といった自然環境変動が管理されることにより、姿を現さなくなったという見方もある。止水域に育成するのに”洪水”とは?、と考えてしまうが、水位が管理されている水辺は多い。
カキツバタは、湖沼の水辺に生育している。しかし、湖沼の消失に伴って県内の生育地が減少傾向にあり、自然状態での生存が心配である。湯や水辺の多い新潟県では、カキツバタの自生する地域はすべて保護の対象地とする方向で、行政も住民も考える時代であると考えている。生育地の保全に理解を頂きたい。
ミズアオイやオニバスなどのように、埋土種子による回復の機会が継続すれば、絶滅の心配がないのであるが、生育地の減少はいずれの日にか、消滅する運命にあるように思われる。カキツバタのように生育地の減少は、直接その生存に影響を与え、消滅する可能性が高い。また、極く限られたところに生育していて、その場が破壊されれば、瞬時に生育が消失してしまうところもある。オノオレカンバなどはその一例である。消失してしまう前に理解を得て、保護の方向を目指したいものである。
ミズアオイ:新潟市上佐潟(2000.9.12) オニバス:新潟市上佐潟(2000.9.12) ミズアオイ:新潟市上佐潟(2000.9.12) カキツバタ:北蒲原郡笹神村(1998.5.19) オノオレカンバ 雄花穂(翌年開花):東蒲原郡鹿瀬町(2000.9.7) オノオレカンバ 枝葉:東蒲原郡鹿瀬町(2000.9.7) オノオレカンバ 幹:東蒲原郡鹿瀬町(2000.9.7)