新潟県中頚城湖沼群の絶滅が危惧される貴重な植物 志賀 隆
新潟県には、海岸沿いの低地に潟湖、砂丘湖が多くみられる。中頚城地方には、「頚城湖沼群」とよばれている湖沼があり、御手洗池、坂田池、長峰池、朝日池、鵜ノ池は新潟市の佐潟、鳥屋野潟、豊栄市の福島潟と同様に新潟県を代表する湖沼である。
頚城湖沼群は潟町砂丘の骨格を成す古砂丘の地形によって湖岸が決められており、特に朝日池、鵜ノ池は複雑な湖岸形状をしている。そのため、多様な環境が形成され、多くの貴重な水辺の植物を育んでいる。
近年、開発や護岸、生活廃水、農薬の流入による水辺環境の悪化のため、多くの植物が絶滅を危惧されている。この湖沼群においても、周囲の開発や廃水の流入により、環境汚染が進んでいる。そこで、この地域のこれからの自然保護の資料とするためにも、貴重種を紹介したい。取り上げた貴重種は環境省発行のレッドデータブック(2000)に従った。
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絶滅危惧IB類
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クロホシクサ(写真1):湿地に生える一年草で、ホシクサによく似ており、同所的に生育する。開発による湿地の消失が減少の大きな原因である。多くの水辺の植物と異なり、小さく、地味な植物である。このような植物は存在を気づかれないまま姿を消すことが多い。県内での自生地は当地を含めてほとんどない。
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絶滅危惧II類
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ミズニラ(写真2):水生シダ植物。県内では産地が数箇所しかなく、開発により姿を消した所も多い。頚城湖沼群では、数個体しかなく非常に貴重である。貧栄養な環境を好んで生育している種であるので、当地のような平野部の富栄養型の湖沼に見られることはたいへん興味深い。
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オニバス:葉や萼、果実など植物体全体に刺がある特徴的な外見から絶滅危惧種であることが一般の人にもよく知られていて、近年、様々な地域で保護活動が活発である。平野部の限られた湖沼に生育しており、新潟県が分布の北限とされている。頚城湖沼群では、朝日池、鵜ノ池、天ケ池、蜘ケ池でみることができる。
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ノウルシ(写真3):湿地にはえる多年草でしばしば大きな群落をつくるが、乾燥に弱く、生育場所が限定される。春に上部の葉が黄色になり、その葉の間に多数の小さな杯状の花ができる。鵜ノ池、天ケ池に生育している。
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ガガブタ(写真4):かつて県内では、平野部の湖沼に分布していたが、その多くは水質汚濁や開発によって姿を消した。夏に可憐な白い花を咲かせる。長峰池と天ケ池でみることができる。
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チョウジソウ(写真5):湿った草地に生育する多年草。近年、湿地の開発のために自生地が減少している。頚城湖沼群における分布は非常に貴重であるが、個体数が少なく、消滅が危惧される。
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ミズトラノオ:県内では頚城湖沼群と新発田市の桝潟にのみ生育している。特に、朝日池、天ケ池、蜘ケ池では群生し、生育状態も良好である。秋になると美しい紫色の花を咲かせる。今後、護岸などの開発によって姿を消すことも大いに考えられる。
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カキツバタ(写真6):アヤメの仲間では最も水湿地を好み水辺に群生する。減少の理由として、自生地の開発以外にも、園芸目的の過度の採集が挙げられている。鵜ノ池の丸山公園内には大きな群落がみられ、5〜6月に、同じように湿地を好むサワオグルマとともに咲き誇る様は壮観である。
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ヒメミクリ:浅い水中に生える多年草。県内では、主に平野および低山の湿地に分布しており、かつては大きな群落がみられたが現在では水湿地の開発によって減少している。朝日池、鵜ノ池に生育している。
今後、朝日池から、蜘ケ池まで含めた大規模な都市公園が造成される予定であり、これらの貴重な植物の消失が心配される。
頚城湖沼群は周囲の砂丘からの湧水によって涵養されているため、湖沼群全体の自然を守るためには、周囲の砂丘地を含めた環境保全が特に必要である。現在、砂丘の林には、キンラン(絶滅危惧種II類)、コケイランなども生育し、非常に良い自然状態が保たれている。
地域住民の話を聞くと、水辺の植物の減少に対して関心を持っている一方で、砂丘地の経済的価値の無いスギ林を売却できるため、公園造成に賛成する意見も多い。
地域の自然を理解し、次の世代へと守り伝えていくことが、私たちの責務だろう。豊かな自然が残る頚城湖沼群をどうにかして保全していくことができないものだろうか。
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写真2.ミズニラ(2000.11.3) |
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写真1.クロホシクサ(2000.11.3) |
写真3.ノウルシ(2000.4.30) |
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写真4.ガガブタ(2000.8.12) |
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写真6.カキツバタ(2000.5.12) |
写真5.チョウジソウ(2000.5.18) |
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