生態系保全のために胎内ダムは必要ないと思う
  石沢 進



 新潟日報の視点に掲載後、新潟県のダム関係者によって、ダムの必要性について説明して頂いたが、「胎内のダムがほんとに必要であるか」むしろ疑問が大きくなるばかりである。

ダムを建設する主な目的は
  1)水道水の確保
  2)発電
  3) 洪水防止
とのことである。

1)については奥胎内からわざわざ導水するのに、長い水道管を敷設するのは、莫大な費用がかかり、また、村落周辺からの流水や地下水で十分対応できると思う。
2)については聞くところによると発電した電気を販売しても、採算が合わないという。むしろ県費を使って赤字であると聞く。
3)の洪水に伴う水害防止は配慮しなければならないことは理解できるが、集落から遠く離れた奥の渓谷に、建設後にも維持に経費のかかるダムの必要性は理解し難い。奥胎内の生態系を壊して洪水対策を行う前に、別な方法で防止策を考えることが妥当と考える。

 再度、強調するが、
「胎内渓谷にダムを造り湛水することにより、生態系は完全に消失してしまうこと、長い間続いてきている自然の歴史を失うこと、その行為は後世に大きな禍根を残すこと等」決して善しとするものが何もない。

 新潟県の自然に関わり、そのすぐれた自然の一端に関する知見を得た立場から、保全したい地域であり、何とか再考を願いたい。山奥の人に知られないところにできるダム計画だから、多くの方々に関心を持って頂く機会が少ないし、その実態を知らないでいることが多い。そのような状況であるから、事の重大性を多くの方に知って頂きたい。「一度破壊したら河川沿いの生態系は全てがなくなる」と悲痛な訴えを投げているので、是非、目を向けて頂きたい。県民の多くの方に同じような考えが広がると共にダム建設関係者にも深い理解を求めたい。

 洪水防止の対策には、
1) 既存のダムの改変や整備、また浚渫を行うことで、ある程度の防止策の検討が必要である。
2〕 既存のダムでの発電は取りやめ、湛水の貯水量を一部だけにして、洪水時の一時的な貯水槽の役目に改変する。
3) 富山県黒部川水系で行われている水田の一時的な貯水や最近報道された「田んぼダムで洪水防止」などが考えらえる。現在の土木工事で、ダムを造るより容易に対応ができると思う。
4)「土砂災害に備えるハード対策」(PORTAL 2003 March No.022 3:026-027)として、新たなダムの建設の例が報告されている。奥胎内では、そこに掲載されたダムでは適当でないと一掃しないで、奥胎内のダムも水を停滞させない方法の模索が必要である。新しい試みに県独自の挑戦を行い、生態系を守る模索を展開してほしい。

 上記1)と2)に関連して付け加えると、洪水防止のために、これから造るダムが絶対に必要であるとの結論を出す前にさまざまの検討をお願いしたい。例えば胎内ダム建設に関する検討委員会を開催したとのことであるが、その是非について十分な検討がなされていないとも聞く。穴開けダムの指摘をしたのに、その可能性の検討は全くしていない。胎内では構造上から無理とし、一笑に付して話題にも提出していない。一般公開で再度の委員会で、生態系の破壊につながることを十分に考えた上で、なおダムの必要性についての再検討が必要であろう。

 また、奥胎内ダムを建設する以外に道なしと考えるのは、納得できない。奥胎内ダムが土砂で満杯になった100年後には、どうなるのか。再びその奥にダムを作ることになるのだろうか。新しいダムを作るのでなく、既存のダムを目的に応じて改変することも必要であろう。現在のダムの堆積量は30%であるという。それならば、洪水対策だけを目的とするならば、極論かも知れないが、次のようなことも可能であろう。赤字であるという発電は中止して現在の湛水をすべて排水し、洪水時に備える。それで不足ならば、これまでダムに堆積した土砂の運びだしを進める。新しいダムを作るよりは、はるかに安くて洪水対策ができるように思う。

 奥胎内ダムは、長い間検討を経て、着工の可否を委員会によって決定したというが、その後の社会情勢の変化に伴ったダムの在り方を再検討しても何の障害もないと考える。しかし、今回のダムの建設は長い間の検討で結論を出したのだから、「反対」の意見がでたからと言っても少数意見であり、再検討は必要ない、という。さらに、「反対」の意見に対していちいち再検討していたら、県のこれからのダム建設に波及するから困ると県のダム関係者は主張する。それはとんでもない発言である。このような考え方でダム建設を進めているとするならば、許しがたい姿勢であり、文書で回答を求めたし、そのような考え方なら一層ダムの建設について再考を願いたい。「反対している理由や意味を理解し、それが妥当かどうか再考し、その意義を理解する姿勢が必要がある」と思う。それにしても、佐梨川ダム計画中止(県電発撤退で負担増)と極めて簡単にダムの建設を中止していることもあるので、奥胎内のダムも莫大な予算を使って建設中のようであり、緊迫して県財政難から、計画中止にして、上記に指摘した対策で洪水防止を考えることが肝要である。

  なお、「ダムを造ることで、失われる河川の生態系の代償をどのように考えているか」、自然環境との共生を基本とする環境審議会の方針とどのように噛み合っているか、国立公園内に建設する奥胎内のダムは、人が一方的に自然環境を破壊するだけで、その保全には全く配慮していない。自然環境との共生を無視していると言っても過言ではない。今回の奥胎内ダム建設は、以上の状況にあるので、特に県のダム関係者が「自然環境を破壊してまでダム建設をする基本的な理念」を一般市民に教えてほしい。

 とにかく、ダム建設の中止の再考をお願いしたい。その上で、細部にわたる検討でダム建設やむなしとなった場 合でも、自然環境との共生を考慮した生態系の破壊を最小限におさえるような、例えば湛水しないダム建設を再度強調するので、検討をお願いしたい。このダムの建設は「飯豊連峰の生態系として意義深い地域の破壊につながる」という、将来に大きな禍根を残すことを忘れないでほしい。


参考資料
新潟日報2002年11月26日
私の視点 奥胎内ダムは再考必要
新潟日報2003年2月20日
田んぼダムで洪水対策 −排水抑え下流の水量調節−
新潟日報2003年3月14日
佐梨川ダム計画中止 県電発撤退で負担増
PORTAL 2003 March No.022 3:026-027
土砂災害に備えるハード対策 環境との調和を目指す砂防施設

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