私は楢物の名前の語源に興味があり、自分なりの愚説をもっている。私の住む越後では、雪解けを待っていたかのように、つぼみをふくらませるツバキについて書いてみた。ツバキの語源いろいろ
@ツヨバキ(強葉木)のヨの省略 Aアツバキ(厚葉木)のアの省略 Bツバキ(光沢木)−−−ツバは光沢の意味 Cシュバキ、ジュバキ(寿葉木)の転訛 Dツヤバキ(艶葉木)のヤの省略 Eテルバキ(光葉木)の省略転訛 Fツブラキ(円木)の省略転訛 Gツバキ(鍔木)の意味 H朝鮮語ツンバク(冬柏)の転訛
このほかツバキはツマキとも呼んだという説や、ツバキのキは不要な添え字だという説などもある。ツバキのキは木ではない
ところで、奈良時代およびそれ以前に用いられていた「万葉仮名の上代特殊仮名づかい」から推察すると、ツバキのキはどうも木ではないようなのだ。万葉仮名には甲類と乙類がある。これは母音のイ、エ、オがそれぞれ2種類に発音され、その違いによって、万葉仮名も甲類と乙類に書き分けられていたもので、ツバキは、古事記では都婆岐、万葉集では椿、海石榴、都婆伎、都婆吉などと表記されている。ここで使われている岐、伎、吉などは上代特殊仮名づかいの分類では甲類で、乙類の木とは発音が異なっている。
したがって△△木とする@〜Gの諸説はいずれも失格ということになる。それではツバキの語源は一体何なのだろうか。ツバキの語源3説
@ ツフ+アキ=壷+開きという説
私は古代の遺跡や墳墓などを見学するのが好きだ。しかも以前住んでいた新潟県東蒲原郡は古代遺跡の宝庫である。ある時、畑から壷のかけらが大量に出たのでもらってきた。ボンドやセメントを使い、長い時間をかけて復元したことがある。
現在ツボというと、口の小さい容器のことを指すが、奈良時代やそれ以前には土の容器、土器を総称してツフ(ツブ)と呼んでいたのではないかと考えついた。古代の土器とツバキの開花の様子を比べると、なるほどよく似ている。植物の名称には、似ているものの名前をつける場合が多い。ツフ(ツブ)状の花が開く。つまり壷状の様子をツフ+アキ(壷開き)と呼んだというわけだ。そして古代には、母音の重複を嫌うのでツバキに転訛したのである。A ツブ+アキ(粒、蕾+開き)という説
初秋のころ、庭のツバキを見ると、小さく、可愛らしいツポミをつけて来年の用意をしている。冬を越し、よい天気が続くと、ツボミはだんだんふっくらしてきて、春の曰ざしを浴びると美しい花を開く。ツブ(粒、蕾)が開く。ツブがアク、ツブがアキ、美しい花を開く。そしてツブアキがツバキ転訛した。この説がもっとも自然なように思われる。B ツブ+アキ(粒、円+開き)という説
ツバキの実はまるい。ツブラ(円)である。花が落ち、小さい実がつき、これが大きくなり、熟すとポカンと口を開け、なかから褐色の種子が顔を出す。これをツブアキと呼び、ツバキになった。古代ではツバキの実は重要な産物のひとつだった。古代人もこんなツバキの実に興味を持っていたかもしれない。
以上3つの愚説を提案した。命名の動機ははたして花か、蕾か、果実か?ツバキの語源は、まだほかにも考えられると思う。しかしその際には少々面倒だが、ツバキのキが上代特殊仮名づかいの分類で、甲類であったことを忘れてはならない。
ヤマツバキの果実