オオユリワサビは、栽培されるワサビに似ているが、地下茎の上部にユリ根のような4〜5枚の鱗茎 葉がついているものである。ワサビは水の豊富な場所に生育するが、オオユリワサビは、水辺より離れ たやや乾燥しがちの場所に生育する。絶滅危惧種の一つで(環境庁自然保護局野生生物課 2000, 鳴橋ほ か, 2000)、新潟県では、南西部の青海町と北部の弥彦村、および佐渡にわずかに分布する。そのうち の弥彦村のものは古くから知られていたが、保護の観点から、生育地が明示されず、ほとんど全滅した とされている(伊藤 1981)。そこは、弥彦山東側山麓にある、弥彦神社の南側の駐車場沿いのスギ林 の下に、5m×5mくらいの範囲に数十株が生育するだけであった。20年ほど前に駐車場が林の境界まで拡 張されて、生育場所が狭くなり、消滅の危険が迫っていた。今年の7月にこの生育地を訪れたところ、 川に沿って弥彦山の山麓ロープウェーの乗り場付近まで、スギ林が伐採されて、幅3mほどの道路が開か れていた(写真1)。オオユリワサビの生育地は、この立入禁止の札の右側にあたるが、大部分の生育 地が砕石で埋められて(写真2)、鉄パイプの囲いの外側では、広くゴミを燃やした跡があって、前よ り日当たりが良くなり、イヌタデやノブキが生育するだけになった(写真3)。オオユリワサビの生活 史は、春に開花結実した後に地上部が枯れて、夏季には地下茎上部に鱗茎葉がついた状態で残り、秋に 再び葉を展開するので、7月ではその存在がわからない。この時は消滅したと思ったが、確証がないの で結論は秋まで待つことにした。11月7日に、同地を訪れ、その場所を探すと、1個体だけが葉を展 開していた(写真4)。道路工事は神社の事情によるが、工事が終わってから「知らなかった」「消滅 した」では、もはや手遅れである。所有者の権利は優先されるが、国定公園内の公共性の高い場所つい ては、管理者は、自然環境保全の意識をもっと高めてほしい。このまま保護されなければ、1個体では 、もはや回復は困難で、消滅を待つだけである。オオユリワサビが、佐渡のトキと同じにならないよう に願っている。
写真1 | |
弥彦神社駐車場から川沿いに、ロープウェーの乗り場付近まで、スギ林が伐採されて道が作ら
れたところ。 (2004年7月2日) |
写真2 | |
作られた道路の起点付近にあった大部分の生育地が砕石で埋められている。 (2004年7月2日) |
写真3 | |
オオユリワサビの生育地は、広くゴミを燃やした跡があり、イヌタデやノブキが生育するだけになった。 (2004年7月2日) |
写真4 | |
1個体だけ残ったオオユリワサビ。 (2004年11月7日) |